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国語辞典比較:「ふみおこなう」が説明不要だと思っている編者に猛省を促す

「倫理」「人倫」「人道」「道徳」「道義」「道」を引いてみたら、

その語釈に「ふみおこなう」という、聞き慣れない言葉が多発。

 

まずは、

岩波国語辞典8版

りんり【倫理】①人間生活の秩序つまり人倫の中で踏み行うべき規範の筋道(の立て方)

どうぎ【道義】人のふみ行うべき道徳上の筋道。

 

 ――「ふみおこなう」って、なじみがないけど、どういう意味?

 

岩波国語辞典8版

ふみおこなう【践み行う・踏み行う】人として行うべき道を、それに則って(=践)行う。

 ▶三省堂国語辞典8版

ふみおこなう【踏み行う・践み行う】そのとおりに実践する。

大辞林4版

ふみおこなう【踏み行う】守るべきことを守って行動する。実際に行う。実践する。

出典が明らかなのが、

▶精選版 日本国語大辞典

ふみおこなう【踏行・践行】①守らなければならないことを守って行動する。*西国立志伝(1870-71)<中村正直訳>「予平生かくの如く践み行へり」

 

「岩国」は「ふみおこなう」の項目があるからまだいい。(そして三国、大辞林、日国は、さすがの守備範囲の広さ)

ところがこの「ふみおこなう」の項目がないのに語釈に使っている(つまり説明不要だと思っている)辞書が、多々あるんである。

明鏡国語辞典2版、3版

https://www.taishukan.co.jp//images/book/197673.png

りんり【倫理】人として踏み行うべき道。道徳。モラル。

どうぎ【道義】人としてふみ行うべき正しい道。

旺文社国語辞典11版

https://www.obunsha.co.jp/img/product/detail/077721.jpg

じんりん【人倫】①人としてふみ行うべき道。人道。

じんどう【人道】①人が人として踏み行うべき道。人倫。

――おまけに、最新の「中高生向け」辞書でも

旺文社標準国語辞典8版

https://www.obunsha.co.jp/img/product/detail/077733.jpg

どう【道】②人のふみ行うべきみち。

三省堂現代新国語辞典6版

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41xwhLG6qhL._SY291_BO1,204,203,200_QL40_ML2_.jpg

どう【道】②人のふみおこなうべきみち。

学研現代新国語辞典6版

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51vENVsKCZL._SX366_BO1,204,203,200_.jpg

りんり【倫理】①人のふみ行うべき道。人倫の道。道徳。

小学館 現代国語例解辞典4版、5版

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51Q1VnJEgoL._SY291_BO1,204,203,200_QL40_ML2_.jpg

【りんり 倫理】人間のふみ行うべき道。人間関係や秩序を保持する道徳。

 

重ねて言うけど、これら6つの辞書に「ふみおこなう」という項目はないんである。

ふみおこなう」なんて「説明不要な言葉」なんかじゃ全くないだろう。

 

なんなんだ、この「ふみおこなう症候群」は?

最初に書いたのは、いったい誰なんだ? そして、

こんな一般的でない言葉が、説明もなしに語釈のために使われ続けているのは、なぜなんだ?

 

かつて「新明国」の主幹・山田忠雄は、「暮しの手帖」による「親亀」批判を受け、「新明国」初版の序文において「小型現代辞書のいわゆる『親亀』に擬せられた」と言及するために、わざわざ「親亀」という項目を設けた。

また、3版で「恋愛」の語釈に(かの有名な)「合体」を用いたときは、「合体」の項目に「性交の、この辞書でのえんきょく表現」という語釈を加えた。

「三国」の主幹・見坊豪紀は、4版の序文で「こうした用例採集(ワード ハンティング)はすでに五十年におよび」と書いたがゆえに、「ワードハンティング」という項目を設けた。

脳みそを働かさず、何も考えずに「ふみおこなう」を使っている連中には、「使う言葉は全てこの辞書の中で説明する」という気概がないのか、と、小一時間ほど問い質したい。