辞書を読む生活

生活:社会に順応しつつ、何かを考えたり行動したりして生きていくこと(新明解国語辞典)

国語辞典・漢和辞典比較:虎穴に入らずんば…

虎穴に入らずんば( )を得ず

( )に何が入るか。ワタクシは、ずっと「虎児(こじ)」だと思っていた。

ところが、漢和辞典にはどれを見ても「虎子(こし)」と書いてある。たとえば

▶漢辞源6版(2018)

https://gakken-ep.jp/extra/gakkou-saiyo/common/images/high_dictionary/1230486900/01.png

「不入虎穴不得虎子」(コケツにいらずんばコシをえず)

うぬぬ、勘違いだったのか? そしたら「新明国」2版(実質初版)には

新明解国語辞典2版(1975)

「虎穴に入らずんば虎子(コジ)を得ず」

とある。「虎子」を「コジ」と読ませるんだ(以来、最新の8版まで同じ)。

一方、「三国」は4版で、

三省堂国語辞典4版(1992)

「虎穴に入(イ)らずんば虎児(コジ)を得ず」

としている(3版以前は手もとにないので分からない)――おお、「虎児」ではないか。(ただし、6版以降には《「虎児」は「虎子」とも書く》っていう注釈を付けている)

ほかにも国語辞典では、

三省堂現代新国語辞典6版(2019)

三省堂例解新国語辞典10版(2021)

▶旺文社標準国語辞典8版(2020)

▶角川必携国語辞典(1995)

小学館現代国語例解辞典4版(2006)、5版(2016)

が「虎児」派。

小学館といえば、「日国」は

▶精選版・日本国語大辞典(2006)

「こけつ(虎穴)に入(い)らずんば虎子(こじ)を得(え)ず」

って書いてる。「虎児」ではない。でも読みは「こじ」。

国語辞典系に「こし」というルビをふっているものは、おそらく存在しない。

ただ「岩国」は、初版から5版までは

▶岩波国語辞典初版(1963)

「虎穴に入らずんば虎児(こじ)を得ず」

だったのが、6版に至って

▶岩波国語辞典6版(2000)

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」

に変わった(ルビなし)。以来、現在の8版まで変わっていない。何があったんだろう。そしてどう読むんだろう。気になる。

 

かたや、漢和系は「虎子(こし)」一色かと思いきや、

小学館新選漢和辞典8版(2012)

「不入虎穴不得虎子(こけつにいらずんばこじをえず)」

▶大修館漢語新辞典(2001)

「不入虎穴不得虎子(コケツにいらずんばコジをえず)」

▶岩波新漢語辞典初版(1994)、3版(2014)

「虎穴に入らずんば虎子(=虎児)を得ず」

なんてのも存在する。

 

推測するに、

1)本来は「虎子=こし」だったのが

2)いつからか、「虎子=こじ」と読むようになった(「童子=どうじ」ってのもあるし)

3)読みに引っぱられて、「虎児」という表記が生じた

ということじゃないかと思うけど、

「いつから」と「どのようにして」が、全く分からない。