日本語に、漢文の要素が大量に入っているというのは、今さら言うまでもない。明治以前、「教養」「学問」「公文書」といえば漢文だったのだから当然。
だからその子孫たる現代日本人としても、「日本の古典」の一環として、漢文は知っておくべきだし、わざわざ知ろうとしなくても知らぬ間に入り込んでいる。
とはいえ、放っておくと曖昧になったり消えていったりしちゃうので、折に触れて漢文を学び直す必要はある。
で、「漢文を学ぶため」の漢和辞典の定番は、
▶新字源(角川)
▶漢辞海(三省堂)
▶新漢語林(大修館)
▶漢字源(学研)
といったところ。これらで「糊口」を引いてみる。
▶新字源(角川)改訂新版
口にのりする。かゆをすする。転じて、生活する。また、生活。くちすぎ。〔左伝〕
――出典のみ。
▶漢辞海(三省堂)4版
かゆをすする。内容のとぼしい食物を口にする。なんとか暮らしを立てるたとえ。〈魏書〉
――これも、出典のみ。
▶新漢語林(大修館)2版
①かゆをすする。転じて、なんとか貧しい生活を立てること。
②口すぎ。くらし。生活。「困糊口(ココウにくるしむ)」
――漢文の用例はあるが、出典はない。
さて、これらの辞書に何が足りないか、おわかりだろうか。「漢字源」に答えがある。
▶漢字源(学研)5版
①口に食物を入れる。生活していくこと。また、生計。▷「春秋左氏伝」
②[日本]「糊口をしのぐ」とは、貧しく、やっとのことで、生活をしていくこと。
――そう、足りないのは「糊口をしのぐ」という日本での用例と、その意味。漢文から受けついで、今の日本でどう使われているか、という情報なんである。
実は、▶学研現代標準漢和や▶ベネッセ新修漢和といった中学生向け漢和辞典とか、▶岩波新漢語辞典とかには、「糊口をしのぐ」という用例とその意味が載っているんだが、漢文は用例も出典もない。いわんや国語辞典においてをや。
そういうわけで、「漢文を学べて同時に現代日本で役に立つ」漢和辞典は、「糊口をしのぐ」に関する限り、
▶漢字源(学研)5版
だったのであります。ちなみに、アプリ(LogoVista)で使えるのは5版だけれど、紙の本の最新は6版。
LogoVistaアプリの使い勝手は最悪だし、紙の本はかなり分厚い(索引別で2,281ページ)、ということは付け加えておきまする。