辞書を読む生活

ジャンルは問わない。だが、好みはある。

「ふみおこなう」は、どこから来たか

しばらく前に「倫理」とか「道徳」とかを引いてみたら、その語釈に「ふみ行う」という耳慣れない動詞を使っている辞書がたくさんあることに気がついたのですが、

この言葉は、私が知らなかっただけで普通に使われる言葉なのか、そして、いったいどこから来たのか、

気になったので調べてみました。

 

まず、近代文学からの用例が豊富な「新潮現代国語辞典」を見てみたところ、「ふみおこなう」という項目はなし。


次に、近現代の文章から豊富な用例を採取している「てにをは辞典」を見ても、項目なし。


やっぱり、「ふみ行う」って、使われてないよね。

 

日本国語大辞典」には、さすがに用例がありました。

「予平生かくのごとく践(ふ)み行(おこな)へり」。出典は「西国立志編」(1870-71)<中村正直訳>(原著『自助論(セルフ・ヘルプ)』は、世界10数ヵ国語に訳されたベストセラーの書。日本では明治4年、『西国立志編』として中村正直により翻訳刊行された←講談社による解説)というものだそうで。

かといって、「言海」(1889)には、そんな項目載ってない。


これだけでは雲をつかむようなので、そのまま放っておいたのですが・・・・・・

最近、漢和辞典を読んでいた時、ふと気がついたのです。

 

―これって、もしかして漢語の訓読なのでは?―

 

そこで、漢和辞典を見てみると、

うちにある一番古い漢和辞典「明解漢和辞典<新版>(1959)」にも、「ふみおこなう」という語釈はいくつも出てくるのです。

ということは、「親亀」はさらに古いに違いなく、ということは、あの「大漢和辞典」か?

もちろん「大漢和」など持っているはずもなく、おいそれと手に取れる環境にもいないので、

それならばと、同じ大修館の末裔「新漢語林(最新の第2版:2011)」で調べてみたところ―

なんと「ふみ行う(踏み行う、を含む)」が、語釈に36回も使われているではありませんか。

 

ちなみに、学研の「漢字源(第5版:2014)」は、15回でした。

(いずれも、LogoVistaというアプリの「全文検索」での数。なお、「漢字海」と「新字源」のアプリは物書堂で、全文検索を実装していないので、数は不明)

 

というわけで、結論は、

―「ふみおこなう」という語釈は、おそらく「大漢和」を親亀とする漢和辞典から生じ、一時期ある種の文献には使われたことがあるものの、その後一般にはほとんど使われなくなったにもかかわらず、いまだに無脳状態で「定義もしなくていい言葉」だと思い込んでいる辞書執筆者がいる―

ということかなぁ・・・・・・