辞書を読む生活

ありとあらゆる辞書が好き(ただし、好みはある:手抜きは嫌い)

国語辞典比較:「お疲れさま」は目上に使えるのか

目上の人には「ご苦労さま」ではなく「お疲れさま」と言うべし、という俗説がはびこっているが、それは果たして正しいのか。

たしかにそう書かれている辞書もある。

 

大辞林 4版

おつかれさま【御疲れ様】仕事などの疲れをねぎらうときに使う語。仕事を終えて帰る人に対する挨拶の言葉としても用いる。「―でした」〔「お疲れさまです(でした)」は同輩や目上の人にも使えるが、「ご苦労様です(でした)」は上位の者から下位の者に対して用いられる〕

 

一方で「新明国」は、初版から4版までは「おつかれさま」という項目はなかったんだが、5版になって次のような項目を立てている。

 

新明解国語辞典 5版

【お疲れ様】仕事に打ち込んでいる人や仕事を終えて帰る人にかけるねぎらいの言葉。〔一般に目上の人には用いない〕

 

おっとぉ! 真逆ではないか! そしてその後、

 

新明解国語辞典 7・8版

「お疲れ様」の形で、同輩以下に対するねぎらいの言葉として用いられる。例、「遅くまでお疲れ様でした」

 

「同輩以下」と明記!

同じ三省堂なのに、大辞林とのこの差は何だ?!

では、急先鋒の「三国」はどうかというと、

 

三省堂国語辞典 8版

[!](1) 戦前に芸能界で使われだし、戦後に一般化した。「お疲れ様〈です/でした〉」の形は、二十世紀末から、目上にも使うふつうのあいさつとされるようになった。

 

と喝破している。つまり「三国」の立場は、「ご苦労様です」も目上にOKだし、「お疲れ様です」もOKだ、と言っているんである。

それと比べて「新明国」だと、どっちもNGになっちゃいそうな気がするんだけど。それじゃぁ何て言えばいいんだ?

推測するに、5版に「お疲れさま」を(目上に使うものではないとして)入れたのは山田先生で、その後、後継者が「ご苦労さま目上NG」をぶっこんじゃったのではなかろうか。

 

ちなみに、「岩国」にも新潮現代国語辞典にも、角川必携国語辞典にも旺文社国語辞典にも、「おつかれさま」という項目はない。

あ、明鏡にはあるけど、語釈と用例が長いし、目上にOKか否かに触れていないので(ニュアンスからして、OKと言ってるっぽいけど)、省略。